松木沢 - わたらせからの風 足尾近辺の山々
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松木沢とジャンダルム

足尾は、ご存知のように鉱毒事件で山々の緑が失われ、廃村に追いやられた村もあります。逆に銅山の活動期には、新しく集落が形成されましたが、廃坑となることで、消えていった集落もあります。

松木村は、1853年には37戸178人が養蚕や大豆、野菜を作り、生活をしていました。

明治に入り、足尾銅山で銅が増産されるようになると、坑内で使用したり、精錬に必要な木材が大量に伐採されました。1884年以降は、さらに精錬所から出る鉱毒ガスおよび酸性雨により、山の木が枯れ始めます。

1887年4月、毎年村で行われていた畦焼きの火が山林に燃え移り、下流の赤倉、間藤付近までを焼く大規模な山林火災が起きました。

この後、さらに足尾の山は荒廃が進むことになります。

この火災のあと、松木村では産業がたちゆかなくなり、多くの村民は村を出てゆきます。残留村民25名(24戸)全員は、全村を銅山側に4万円で売却し、村は廃村となります。銅山は、買収した松木村の土地を堆積場とし、鉱石くずなどのカラミを次々に捨て、現在のボタ山ができました。

今回は、銅山から、流れ出た煙で山の緑が失われ、かつては養蚕等で土地に根付き、生業をたてていた松木村跡、すなわち松木沢を訪れます。足尾ダムの駐車場にクルマを置き、スタートです。(取材日:2012.9/5 水、10/25 木)



足尾ダム駐車場

9時前に足尾ダムの駐車場に着いたのですが、
既に数台のクルマがありました。
桐生の方が、これから久蔵沢に向かうということで身支度をしていました。

ダムから放水される水音がうるさいくらいに谷に響き渡っています。

 放水の音 遠吠えの如 秋のダム

駐車場の片隅にさっそく松木村の名残を見ます。
石灯篭、石仏、手水鉢。灯篭には、「男体山」と刻まれています。

 古えの 祈りはいずこ 幾年秋

足尾ダム

足尾ダム駐車場の石灯篭

渡良瀬川源流の碑

渡良瀬川源流の碑

足尾ダムの駐車場の下り口には、
渡良瀬川源流の碑が建ち、
北西に渡良瀬川源流の各々の沢が望めます。
久蔵沢、松木沢、仁田元沢。

林道ゲート

その隣にゲートがあり、車両通行止めとなっています。

足尾では、いまも砂防、緑化の仕事が延々と続けられており、この林道の先にも毎日のように働く人々がいます。

ゲートをくぐって進みます。
すぐに松木沢の案内板がありますが、
この道は、久蔵沢への道です。

 

 空青く 水碧く 川渡る風

林道ゲート

松木沢案内板

久蔵沢

久蔵沢

そこもパワーショベルが動き、工事中です。

林道

左右に雑草の生えた林道を進み、山を右回りに回り込み、松木沢へ向かいます。





回り込むと、ダムからは見えなかった松木沢が一望できます。
拡がる灰色の広い河原とようやく緑が戻りつつある、
中倉山へと続く尾根が左に見えます。

林道

松木沢

スーパーキャリア

稼働時のスーパーキャリア

スーパーキャリア

右の山腹に木製の塀が現れ、川沿の砂利道を5分ほど歩くと、
かつて緑化のために造られたスーパーキャリアのレール跡が
右の山上に向かって現れます。
といっても現在は稼働していなく、
山上で数人の作業員が撤去の作業中です。

2000年に足尾ダムで故立松和平の緑化の講演を聞き、
このスーパーキャリアに乗り、
尾根から松木沢を眺めたことがあります。
あれから、10年。役割を終えたのでしょう。
確かに緑も増えています。

ボタ山

その隣は、山肌が黒い砂丘のようになっています。
銅山から出るカラミを捨てた堆積場、すなわちボタ山です。
カラミは銅石から、銅をとった後の鉄分を多く含む残り滓。
そのために黒い色をしています。
この部分だけ見ると、異様な風景です。

映画「人間の条件」のロケ地として使った場所でしょう。

 時を超え カラミの山は、夢のあと

ボタ山
砂利プラント

砂利プラント

さらにその先の川沿いでは、砂利のプラントが動いています。
小石と砂を分けています。

松木沢

このあたりから松木沢とジャンダルムが一望できます。

松木沢とジャンダルム

石碑

林道

石碑

林道の左の草原の奥に3基の石碑が見えます。
両側の2基が各々内側に傾き、寄り添うような姿です。
広い草原にポツンと佇む景色は、もの悲しい。

 秋草原 石碑が3基 我に向く

この林道もかつては、松木村のメイン通りだったのでしょうか。

松木沢ヘリポート

さらに5分ほど歩くと、右手に茶色い小屋があり、
松木沢ヘリポートに着きます。





その少し上の高台の1基の石祠が見えます。
かつて松木村を見下ろす場所に置かれたのでしょうか。






松木沢ヘリポート

石祠

案内板

みちくさ

案内板

ヘリポートの反対側(沢沿い)に
NPO法人 森びとプロジェクト委員会の建てた説明板が
立っています。
先に記した松木村の歴史が記されているのですが、
説明文の上に昔の松木村のようすが描かれた画があります。
こうして昔の長閑な姿を見せられると、
時の流れ、人為が風景を変えてしまったことに否応なく
心が向き合いますね。

さらに先に「遊働楽舎 みちくさ」と書かれた小屋があります。
休憩施設のようですが、
カギがかかっていたので、入ることはできませんでした。

林間の道

道は、木立の中を通り、若干涼しくなり、
右の山からの小さな流れのウメ沢を渡ります。

林間の道

小さなウメ沢

最終ゲート

大ナギ沢

最終ゲート

数分で広場に突き当たり、そこに最終ゲートがあります。
ダムから、約一時間程度です。





道は、まだ右の山側に回り込むように続いています。
上ってゆきますが、大ナギ沢の堰堤もあり、そこまで。





石垣、墓石群

最終ゲートまで戻り、ゲートの先へ向かいます。







右手の木の生えた小高い高みに石垣と墓石群があります。
実は、道からは見えません。
一本の木のちょうど木陰にありました。







この墓石群は、文献等で写真で紹介されているものです。

石台の上に傘のある石塔1基のほか数基の石塔が並びます。

 村人の 生きた証しの 苔墓石

確かにこの地で生活していたひとがいた・・・

墓石のある高台

石垣

墓石からダム方面を振り返る

ジャンダルム

ジャンダルム(拡大)

ジャンダルム

展望の開けた場所からは、
左にジャンダルム、下に松木渓谷、その先に日光の山々。

ジャンダルムは、松木沢の西に聳える岩峰で
高度差100m、幅300m。
フリークライミングの場所ともなっています。
しかし、岩質が花崗岩質なので、もろいようです。

景色としては、素晴らしい!
山水画のような景色が眼の前に拡がります。
確かに、日本のグランドキャニオンと呼ばれるに値します。

帰りは、来た道を戻ることになります。
往復2時間程度の明るい道のトレッキングで、素晴らしい景色、
そして産業の近代化がもたらした負の遺産を
眼の当たりすることができます。
平日の工事の作業中や林道から外れなければ、
危険な場所もありません。
ぜひ一度訪れてみてほしいと思います。

足尾の街中の産業遺産と異なる、これも産業遺産です。

 渡良瀬の流れは 変わらず 松木沢

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